近年、成人(高齢者を含む)や子ども・青少年など、あらゆる世代の人々において、身体活動指針で推奨されている身体活動量をある程度充足していたとしても、それ以外の時間 の長時間にわたる座位行動、いわゆる座りすぎが種々の健康問題を引き起こすことが知られるようになってきました。座位行動とは、「座位 、半臥位または臥位の状態で行われるエネルギー消費量が1.5メッツ以下のすべての覚醒行動」と定義されています。
成人を対象にした座位行動の健康影響に関する観察研究のシステマティックレビューによると、座りすぎは総死亡、心血管疾患死亡・罹患、がん死亡・罹患、2型糖尿病罹患等と関連することが示されています。また、子ども・青少年の場合、座りすぎが体力および心血管代謝の健康、肥満症、社会性行動、睡眠時間等と関連することが指摘されています。
しかしながら、現状では世界中の国々において成人のみならず子ども・青少年においても座位行動(たとえば、一日の総座位時間)はかなり長いことが知られており、日本人の場合も例外ではないことが報告されています。
このような状況を背景として、諸外国では身体活動指針に「座位行動」に関する指針が盛り込まれるようになってきました。たとえば、カナダでは1日の座位時間を8時間未満に抑えることや、余暇のスクリーンタイムを一日2時間までとし、長時間連続した座位行動を頻繁に中断することを奨励しています。オーストラリアでは、各年齢層(0~5歳、5~17 歳、18~64 歳、65 歳以上)に加え、妊娠中の人、障害や慢性疾患を有する人のための身体活動・座位行動指針が公表されています。特に、子ども・青少年用として、健康的な成長を支えるための身体活動・座位行動・睡眠を24時間の行動として捉え、バランスの取れた活動的ライフスタイルを毎日送ることが奨励されています。
日々の何気ない、座るという(寝そべるを含む)行為ですが、「座りすぎ」を是正することは、未来の子供たちへの大切な道しるべになるかもしれません。
参考文献:柴田愛ら. 世界各国における座位行動指針の策定動向. 運動疫学研究, 2023(早期公開).
⑱ご存じですか? 座りすぎと死亡リスク
⑳私の座位行動時間、大丈夫?! セルフチェックと対処法
㉑座りすぎによるむくみ ~その原因と対策~
㉒座りすぎによるメンタルへの影響
【プロフィール】
◆岡 浩一朗(おか こういちろう)
早稲田大学スポーツ科学学術院、副学術院長兼スポーツ科学研究科長
1999年に早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程を修了、博士(人間科学)の学位を取得。早稲田大学人間科学部助手、日本学術振興会特別研究員(PD)、東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)介護予防緊急対策室主任を経て、2006年4月、早稲田大学スポーツ科学学術院准教授に着任。2012年4月より現職。専門は、健康行動科学、行動疫学。岡浩一朗オフィシャルWebサイト。ワセダオンライン「『座り過ぎ』が健康寿命を縮める」。
◆荒木 邦子(あらき くにこ)
早稲田大学スポーツ科学学術院非常勤講師
早稲田大学アクティヴ・エイジング研究所研究員
博士 (スポーツ科学) (早稲田大学)
健康づくり・介護予防事業立上げ・指導を経て2009年より現職。
ヘルスプロモーション、運動指導方法論、介護予防プログラム開発指導をはじめ
自治体・企業の健康づくり事業、地域活性事業に携わる。
日経プラスワン「カラダづくり」連載、NHKBS「チョイス」、TBS「あさちゃん」他出演。